不眠の子守唄

書評ブログ。たまに本以外も。読書は海外文学、音楽は洋楽多め。不定期更新

書評

『まんが訳 酒吞童子絵巻』(ちくま新書)書評・感想ーマンガ理論で生まれ変わる絵巻物

新書を買いそろえるのが趣味なのだが、最近は忙しくあまり読めていない。 その中で、非常に読みやすく、かつ面白かったのが、ちくま新書から出た大塚英志監修/山本忠宏編『まんが訳 酒呑童子絵巻』である。 その名の通り、『酒吞童子絵巻(酒天童子絵巻)』…

カミュ『異邦人』の主人公ムルソーは「サイコパス」か「正直者」か?【あらすじ・考察】

ボーガンによる殺人事件というニュースを見た。亡くなられた方のご冥福をお祈りする。 不謹慎ながら、私がボーガンと聞いて思い出すのは、ドラマ『相棒』Season1 第5話「目撃者」という話である。 小学校周辺で起きたボーガンによる殺人事件を題材とした話な…

三島由紀夫『美しい星』あらすじ・考察ー異端のSF、だけど三島ワールド

三島由紀夫に『美しい星』という作品がある。 三島作品としては異色なSF的作品であり、「変わった作品」とみられることが多い。 しかし、私は三島作品の中でこの作品が一番好きかもしれない。それはこの小説が、私の初めて読んだ三島作品だからでもあるのだ…

大学院生が、水月昭道『高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院』を読んで自戒する

私は現在、文系の大学院修士課程の学生であるが、なかなか厳しい道であることを自覚している。 そうというのも、一般に文系で修士・博士まで進んだ学生というものは、一部が大学教授の職を得られるほかは、社会的栄達と全く無縁の生涯を送ることになるからで…

『捜神記』こそ、面白い漢文教材である―三国時代の不思議な逸話集

私は漢文がものすごく好きなのだが、世の中には漢文が嫌いな人も多いようで悲しんでいる。 この原因は、おそらく句法の暗記などのめんどくささがあるだろう。確かに句法の暗記というものは面倒である。 しかし、そのような「めんどくさい」技能を少し頑張っ…

ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』あらすじ・感想ーあえて「ブラックユーモア」として考察する

ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』といえば、「知能を高めることが幸福なのか?」といった「幸福」について問うているSF作品としてや、ラストの場面に感動する心温まる作品として、また文学的には、主人公の「手記」という形をとることで、主人…

教科書の教えてくれない中国史ー宦官は中国史上の「必要悪」だったのか?ー三田村泰助『宦官』書評・感想

家の本棚にある中公新書のバックナンバーを見ていたら、異様に番号が若い本がいくつかあった。 その一つが、この三田村泰助『宦官―側近政治の構造』ーー通し番号で7冊目の中公新書ーーである。(もう一つは宮崎市定『科挙―中国の試験地獄』(中公新書15)だ…

「人生の尊さ」を考える、漫画の神様のマンガ哲学ー手塚治虫『ぼくのマンガ人生』書評・感想

岩波新書には多少「お堅い」イメージがあるが、もちろん例外もある。 その最たる例が、手塚治虫『ぼくのマンガ人生』だろう。 この本は、日本を代表する漫画家・手塚治虫の講演をまとめた本であり、最後の30ページほどはマンガであることもあって非常に読み…

主人公への違和感の正体は?ーカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』あらすじ・考察

カズオ・イシグロの最高傑作は? と聞かれたら、この『わたしを離さないで』を推す人は多いのではないだろうか。 私は正直に言うとこの問いには『日の名残り』と答えてしまうのだが、『わたしを離さないで』も名作であることには間違いないし好きな作品であ…

ブタ・牛・昆虫… 動物たちを「裁判」にかけて処刑した文化の謎を解く!?ー池上俊一『動物裁判』書評・感想

最近、各書店の新書売り上げランキングなどで、池上俊一『動物裁判 西欧中世・正義のコスモス』(講談社現代新書)という本が上位にランクインしていることが多い。 この本は30年も前の本なのであるが、どうやら、ラジオ番組をきっかけにある書店が売り出し…

めちゃくちゃ面白いフランス文学の入門書!ー鹿島茂『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』書評・感想

フランス文学の一番楽しく読める入門書は?ーーと聞かれたら、この鹿島茂『悪女入門』(講談社現代新書)を薦める。 この『悪女入門』という本、その名の通り男を誘惑し破滅させる「悪女」(ファム・ファタル)になるためのハウツー本なのであるが、そのテキ…

知られざるドイツ文化の一面に迫る!?―篠田航一「ヒトラーとUFO 謎と都市伝説の国ドイツ」書評・感想

平凡社新書はけっこうおもしろい本が多いと思っていて、本書もその一つである。 副題に「謎と都市伝説の国ドイツ」とあるように、本書はドイツの都市伝説について記した本である。「ヒトラーが宇宙人と接触していた!!」みたいな内容ではないのでご注意いた…

「優しすぎる父親」は孤独死してしまう運命にあるのか?ー『ゴリオ爺さん』あらすじ・感想

老人ホーム(宿泊ありのデイサービス)でボランティアをしたことがある。 実の子どもたちもほとんど世話をしに来てくれないようなお年寄りを目の当たりにして、心が痛んだ。ーーそのようなお年寄りの方々も、若いときは人並み以上に子どもに愛情と金銭を注い…

きっと探していた名文に出会えるーリルケ『マルテの手記』感想・考察

ライナー・マリア・リルケの『マルテの手記』は、長編小説というよりは詩である。 作家志望だけど売れない青年の、悩みと回想をひたすらに吐露したような作品で、ストーリー性はない。 しかし、ストーリー性がないからといって、その作品が面白くないわけで…

カズオ・イシグロ『日の名残り』あらすじ・感想ー人生の哀しさと楽しさを描いた名作

小説の主人公というものは、たいてい並外れた知性や洞察力の持ち主であることが多い。でも、カズオ・イシグロの『日の名残り』(土屋政雄訳)は、この原則にまったく反する。 「普通の人」が人生の夕暮れに差しかかったときに、ふと自分の人生とは何だったの…

アメリカの国民的小説! ハーパー・リー『To Kill a Mockingbird(アラバマ物語)』を読む【あらすじ・感想】

20世紀に書かれた最高の英米文学は? というランキングで、たいてい上位に君臨するのは、『ユリシーズ』とか『怒りの葡萄』など日本でも馴染み深い本である。 だが、アメリカ人がこのようなランキングを作成すると、たいてい上位に『To Kill A Mockingbird』…

内田百閒『百鬼園随筆』はここが面白い!

現代作家で誰の文章が好きかと聞かれたら、森見登美彦と答える。 森見登美彦の文体はやや古風なところがあり、面白いし独特なリズム感が大好きな作家である。そんな森見登美彦の文体に大きな影響を与えたのは、内田百閒だという(出典:作家の読書道:第65回…

「ハードボイルド小説とは何か?」を確立した名作ーレイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』感想

ハードボイルド小説とは何か? この問いに最も的確に答えてくれる作品は、レイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイ』(村上春樹訳。清水俊二氏による旧訳では『長いお別れ』)なのではないかと思う。 私は特にハードボイルド小説を愛好しているという…

シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』考察ー描いているのは、「女性の自立」か「弱者の差別」か?

ジェーン・エアといえば、古典的・典型的なシンデレラ・ストーリーと思われている人も多いだろう。 それは一面では誤りではないのだろうが、この古典的名作をそのように表層的にしか読まないというのには個人的には反対である。『ジェーン・エア』は、作品が…

ジョージ・オーウェル『1984年』考察ー二重思考を信じ込まされる馬鹿になってはいけない

20世紀に書かれた最高のイギリス文学は? というランキングで、たいてい1位に君臨するのが、このジョージ・オーウェル『一九八四年』である。 この作品は、いわゆる「ディストピア小説」である。その後のディストピア小説に大きな影響を与えたのはもちろん、…

アーレントの伝記を読みたいならこの一冊ー矢野久美子『ハンナ・アーレント』(中公新書)レビュー・感想

今日(4月11日)、中公新書公式アカウントがこんなツイートをしていた。 1961年4月11日、ユダヤ人大量虐殺に深く関わったアイヒマンの裁判がエルサレムで始まりました。政治哲学者ハンナ・アーレントが傍聴して発表した裁判記録は、論争に発展。矢野久美子著…

前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』感想・書評ー「バッタ研究者」奮闘の裏の悲壮な現実

私は大学院生である。それも、世にも珍しい文系大学院生である。 文系大学院生になってから、いつになったら定職に就けるのか不安で不安で仕方がない。ならば大学院など行かなければ良いではないかといわれそうだが、そういわれるとしんどい。 大学院生は大…

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』が面白いージョジョの作者はホラー映画に「癒される」?!

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の奇妙なホラー映画論』を読んだ。著者はご存知の通り、「ジョジョの奇妙な冒険」の作者である。 この本は、「ホラー映画の入門書」「おすすめのホラー映画の載ったハンドブック」としても面白いし、また、荒木飛呂彦先生がどのような…

「食品物理学」から食べ物の秘密に迫る良書!ー上野聡『チョコレートはなぜ美味しいのか』感想

貴方はチョコレートが好きですか? 好きならば、なぜ好きなのですか? どのようなチョコレートが好きなのですか? もしかすると、この上野聡「チョコレートはなぜ美味しいのか」は、この問いに対して科学的な答えを与えてくれるかもしれない。チョコレートを…

ガルシア・マルケス『百年の孤独』で海外文学の陶酔に浸るーラテンアメリカの熱情と魔術的幻想の神話

ガブリエル・ガルシア・マルケス「百年の孤独」という作品がある。同名の酒の元ネタである(多分)。 この作品は、「20世紀の傑作」ランキングなどでたいてい上位にランクインする作品(特に新潮社のランキングでは第一位にランキングしている)であり、その…

新型コロナウイルス流行を歴史と比較するー100年前も「自粛」はあった!内務省史料を読むー

テレビでは新型コロナウイルスのニュースばかりが流れる。 外出自粛・渡航規制など、色々と市民生活への影響も大きい。ここで、一人の歴史好きとして気になるのは、昔の伝染病流行時にはどのような対策が採られていたのだろうか、ということである。 ちょう…

勉強が苦手な子を非行少年にしないためにできることー宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』レビュー・感想

昨年の新書の中で一番売れたという、「ケーキの切れない非行少年たち」。はじめて読んだのはずいぶん前だが、ここに感想を記す。

【書評・感想】「『現代思想』2016年10月号 緊急特集 相模原障害者殺傷事件」を読む

昨日、相模原障害者殺傷事件の植松被告に死刑判決が下ったことで、自分の胸に去来することについて書きつらねた。 moriishi-s.hatenablog.com だが、しっかりとこの事件についての論評を読むことも大切なのではないかと考え、今更ながら「現代思想 2016年10…

二月革命から十月革命 ロシア革命を学ぶならこの一冊ー池田嘉郎『ロシア革命 破局の8か月』書評・感想

3月8日は「国際女性デー」である。 実はこの「国際女性デー」は、東欧の国々には交際「女性の権利向上のための記念日」以上の存在感を持っている。それは、1917年の国際女性デーにペトログラード(現サンクトペテルブルク)で起きたデモがきっかけとなり、「…

カート・ヴォネガット『猫のゆりかご』あらすじ・感想ー描く世界に「真実はいっさいない」のか?

カート・ヴォネガット「猫のゆりかご」について感想を記す。 この「猫のゆりかご」を一読した当初は、正直なところあまりよくわからなかったと記憶している。だが、先日「タイタンの妖女」の感想を記したのをきっかけに再読し、この作品についてもだんだん理…