不眠の子守唄

書評ブログ。たまに洋楽や美術館。読書は海外文学・新書・古典etc.

あだち充『H2』の魅力ーあだち充長編漫画のエッセンスを凝縮した最高傑作

最近、小学館のアプリ「サンデーうぇぶり」の広告がよく表示される。

いくつかのマンガの広告が出るが、「H2」の頻度が私のスマホでは最も高い。

 

残念ながらすでに私はH2を全巻持っているので、この広告が出てもアプリをダウンロードしようという気は起きない(笑)。

 

しかし、このアプリ広告によってH2という素晴らしいマンガの良さがさらに広まってくれれば嬉しいことこの上ない。

そうというのも、実は、「H2」は、私が一番好きといっても過言ではないマンガだからである。

ここでは、極力ネタバレなしで「H2」の魅力について語っていきたい

ネタバレを含む考察についてはこちらなどで行っている。

(なお、結局「サンデーうぇぶり」も結局ダウンロードし、いろいろなマンガに出合ったり読み直したりしている笑。「H2」も、昔の作品なのにアプリでの人気を保っていて作品の底力を感じさせる)

あだち充の最高傑作としてのH2

あだち充という漫画家は、しばしば絵とストーリーがワンパターンと評されることが多い。絵については周知の事実でろうが、あの絵がどうしても好きになれないという場合以外は問題にならないだろう(あだち充は画力も高く、万人受けする絵柄だと思うが)。

 

あだち作品のストーリーがワンパターンと言われるのは、次の要素が作品の中核をなすことが多いからである。

  1. 野球(ないし別のスポーツ)とラブストーリーの青春漫画
  2. 幼馴染が絡む
  3. 三角関係
  4. ロミオとジュリエット的な禁じられた関係
  5. 近親者の死ないし生命の危機

そしてH2も例にもれず以上の要素を満たしている

 

1.については、H2はまさにその通りである。野球をテーマにした青春漫画だ。

 

2.については、主人公の国見比呂と、ヒロインの一人雨宮ひかりの関係がこれにあたる。

 

3.については、「H2」というタイトルの由来が「2ヒーロー2ヒロイン」であることからも予感できるだろう。

 

4.は、「ラフ」がまさに「ロミオとジュリエット」要素を持ったラブコメディであり、あだち作品がいわゆるロミジュリ的展開の影響下にあることを示すものである。他にも禁じられた関係としては、「じんべえ」の義理の親子関係、「みゆき」の義兄妹関係が挙げられる。

 

5.「タッチ」の和也の死や、「ラフ」の中西の交通事故、「クロスゲーム」の若葉の死などである。 

ネタバレになるので「H2」での詳細は秘しておこう。だが、だいたい以上の内容は含んでいると思って読んでもらって構わない。

 

あだち充作品は確かにワンパターンかもしれないが、以上の要素はあだち充が面白いと思って何度も書いている要素であり、あだち充作品のエッセンスである。

そのようなあだち充のエッセンスが詰まった、洗練された作品であるからこそ、私は「H2」こそがあだち充の最高傑作だと考えているのである(次点で「ラフ」。これについてはまたのちほど)。

 

以下では、私がどのような点で「H2」をあだち充の最高傑作と考えているかを述べていきたい。

「2ヒーロー、2ヒロイン」

先に「H2」の由来が「2ヒーロー2ヒロイン」であることを紹介してしまったが、主要登場人物について一応紹介しておこう。

H2〔文庫版〕  1 (小学館文庫 あI 61)

【上画像】国見比呂(主人公。千川高校野球部、投手。中学は英雄とひかりと同じ)

H2〔文庫版〕  3 (小学館文庫 あI 63)

【上画像】橘英雄(比呂の中学時代からの親友。明和一高野球部、三塁手。中学時代からひかりと交際)

H2〔文庫版〕  2 (小学館文庫 あI 62)

【上画像】古賀春華(千川高校マネージャー)

H2〔文庫版〕  4 (小学館文庫 あI 64)

【上画像】雨宮ひかり(比呂の幼馴染。明和一高に通学。中学時代から英雄と交際)

 

以上が、2人のヒーローとヒロインである。写真を挟みややわかりにくかったと思うのでもう一度文字のみでまとめると、以下のようになる。

  • 国見比呂(主人公。千川高校野球部、投手。中学は英雄とひかりと同じ)
  • 橘英雄(比呂の中学時代からの親友。明和一高野球部、三塁手。中学時代からひかりと交際)
  • 古賀春華(千川高校マネージャー)
  • 雨宮ひかり(比呂の幼馴染。明和一高に通学。中学時代から英雄と交際)

この説明だけを見ると、「ひかりー英雄」の関係性は確定していて、あとは比呂と春華のラブコメ展開を待つのみでは…? と思うかもしれないが、そう簡単にはいかないのが世の常(ラブコメの常?)である。

 

メインヒロインは春華なのか、ひかりなのか。ややもすればどろどろとした関係になりそうな関係を、青春の物語としてさわやかに描き切っているのがこの作品の第一の魅力なのである。

そのさわやかさの理由は、比呂と英雄の親友かつライバルという関係にあるだろう。

 

比呂と英雄のライバル関係

主人公の比呂は英雄と中学時代からの親友である。高校は別々に進学し、野球でのライバル関係となった。

彼らの高校は地区が違うため、甲子園で対決することになる。地区が違うというのはおそらく後付けの設定だろうが、この二人の甲子園での対決を可能にさせたのはストーリー編成上の名采配であろう。

 

この「親友かつライバル」という構図は前述の通りこの作品の魅力なのであるが、実はこのようなキャラクターの配置は他のあだち充作品には少ない。

これが、「主人公が2人」のゆえんである。

 

そして、そのライバル関係は野球以外でも、というストーリーが中盤以降の肝となっていくのである。

熱いサブキャラクターたち

「H2」の第一の魅力は、まさにこれである。野球に関するサブキャラクターの充実度合いは他のあだち充マンガの一歩上を行く(なお、私が「ラフ」を次点で推したのも、サブキャラクターの充実によるところが大きい)。

 

主人公・比呂の千川高校には、比呂の相棒である捕手の野田に加え、柳・佐川の二遊間に加え、センターの木根、レフトの島、ライト(ファースト)の大竹とクセもあるが魅力的な人材がそろっている。

 

あの「タッチ」だって明青高校野球部は、上杉達也のほかには印象に残る人材が松平以外ではヒョロガリの後輩・佐々木くらいだったのとは大違いである(主人公たちに先立って卒業してしまう先輩の黒木を除いて)。

H2 11 優勝してこい (My First WIDE)

【上画像】千川高校野球部。後列は左から木根、比呂、野田、柳。比呂の学年で千川高校野球部を担っているのは彼らである。

 

サブキャラクターが充実していていい点は、試合展開に感情移入がしやすいことである。あだち充マンガでの試合はストーリーの主役ではないことが多いものの、H2の試合内容の緊張感と面白さは彼らの存在のおかげである。

サブキャラクター全員が十分に出番を与えられているかというとそうではないが、この中でも木根の存在はH2の魅力の一つであると思っている。彼の活躍を乞うご覧あれ。

 

個人的には明和第一の監督も、いい味を出していると思う。

「ゼロ」からのスタート

登場人物の魅力も一つだが、ストーリー展開だってもちろん魅力的である。

序盤のクライマックスである、野球部創設劇にこのマンガの面白さの一つは集約されている。 実は、主人公・比呂の通う千川高校には、野球部がないのである。しかし「野球愛好会」は存在していた。

これをいかに「野球部」に格上げするか、立ちはだかる障壁を乗り越えていくのがストーリー序盤の最大目標である。

この「ゼロからのスタート」は、タッチの上杉達也も同様であるが、序盤の苦労はストーリーの王道であり、そのおかげでストーリー終盤の感動も増すのである。

優れた心理描写

これはH2に限ったものでない。あだち充という漫画家の特徴である。

背景のみでストーリーを語らせることに関しては彼の右に出る者はいないだろう。

f:id:moriishi_S:20200201105340j:plain

photo by Unsplash

しかし、あだち充台詞の中に多くを含意させるのにも優れている作家でもある。

 

私が「H2」で一番好きなコマの一つは、次の台詞のあるコマだ。

デートをしていたひかりと英雄が、ロードワーク中に休憩に入った比呂と春華と鉢合わせした時に流れていたBGMを暗示する台詞だ。

レベッカのフレンズ」

レベッカの「フレンズ」がどのような曲かは今の若い人の間では常識ではないかもしれないので説明をしておくと、初めてできたボーイフレンドとのファーストキスの曲である。そして、

「二度と戻れない Oh フレンズ」

というサビがなんといっても有名だろう。

 

他のあだち充マンガに通底するものであるが、H2の甘く切ない心情にレベッカの「フレンズ」はマッチしている。

何気ない会話の中で、そのコマのBGMがなんなのか、そしてそれが何を暗示するのかを表すようなセリフをさらっと挿入できるのがあだち充の「凄さ」なのである。

結末の余韻

ネタバレはここではしないのでご安心を。

 

あだち充のマンガは、結末の描写が意図的に省略されているものが多い。

H2も、その結末にくどい説明はない。「わかりにくい」という意見もあるだろうが、ある程度解釈と議論の余地を残しているのが文学作品としての良さだと思うのである。結末は一意に解釈することはできないが、考察するための十分なピースは残されている。

自分で考察するのも、このマンガを読む楽しみではないか。

 

(余談だが、同じくあだち充作品の「スローステップ」は、結末こそわかるものの、そこに至るまでの過程に考察するほどの余地はなく妄想するしかない。「みゆき」も少し分かりにくいという意見があるが、

おわりに

「H2」は最高のマンガです。

H2 文庫版 コミック 全20巻完結セット (小学館文庫)

H2 文庫版 コミック 全20巻完結セット (小学館文庫)

▼関連記事

moriishi-s.hatenablog.com