不眠の子守唄

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昭和の戦前社会を10のテーマから見る-井上寿一『論点別 昭和史-戦争への道』書評・感想

今日は昭和の日、昭和天皇の誕生日ということで「昭和」に関する本のレビューをしようと思う。

というわけで、今回紹介するのは井上寿一『論点別 昭和史-戦争への道』(講談社現代新書)である。

論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

『論点別 昭和史』の特徴

この本の一番の特徴は、題にもある通り「論点別」で昭和史について記述されている点である。

 

基本的に多くの歴史の本は、編年体(時代順)に記述されている。

 

しかし、この本は「テーマ別」に記述されているのである。

そのため、かなり読みやすい新書になっているのではないかと思う。気になった部分から読み始めることもできる。

 

『論点別 昭和史』章構成

テーマは以下の通りである。

第1章 天皇

第2章 女性

第3章 メディア

第4章 経済

第5章 格差

第6章 政党

第7章 官僚

第8章 外交

第9章 日米開戦

第10章 アジア

「軍部」という項目はないのだが、これは軍部が全ての章に横断的にかかわっているからである。

戦前の日本を様々な角度から見る

この本の題は「昭和史」であるが、副題が「戦争への道」であるように、実際はほとんどが戦前についての記述であることは言っておかなくてはならないだろう。

 

著者の井上寿一氏は、戦前の政治外交史が専門の研究者であるのので、戦前の記述が殆どになるのは当然である(一応、「昭和史」を名乗っていることに配慮してか、各章の最後には戦後の流れについてが軽く触れられている)。

なお著者の井上寿一氏は、現在は学習院の院長も務めている方で、多くの一般向けの新書を出している方である。

(著者の新書としては戦前の二大政党制を描いた『政友会と民政党-戦前の二大政党制に何を学ぶか』(中公新書)や、国民精神総動員運動について書いた『理想だらけの戦時下日本 』(ちくま新書)が、面白く現代社会への示唆も富んでいておすすめである)

理想だらけの戦時下日本 (ちくま新書)

理想だらけの戦時下日本 (ちくま新書)

 

『論点別 昭和史』のテーマとは

この本は何度も述べているように、10のテーマを持っている本である。

 

そのため、すらすら読むには非常にいいのだが、逆にこの本を通したテーマというものは見えにくく、それゆえ読了後に「結局どういう本だったっけ?」と思ってしまうこともあるかもしれない。

 

しかし、やはりこの本を通じて一つのテーマがあるとすると、「戦前の社会と比べて現在の社会はどうなのか?」というのがテーマなのではないかと思う。

 

たとえば、第5章「格差」にある記述などである。本書には次のようにある。

 

昭和の農民は、格差の是正を求めていた。

格差改善の夢は日中戦争の開戦によって、一時的に進んだように見えた。

ーーしかし、戦争が進むと経済は困窮化し、格差の是正は止まっていく。

それでも格差の是正を求めることは、社会が下方平準化する(等しく貧しくなる)ことを意味した。

ーーという内容である。

おわりに

現在の社会には軍部というファクターはないから、単純に比較することは困難である。

しかし、戦前に現代社会と似たようなものを見出すことはできるし、そうであるとしたらそこに反省点を見出すべきなのである。

 

本書は、現代社会との比較については過激な指摘を避けている。

だが、読者一人一人が 、戦前の社会を見ることによって「社会はどうあるべきなのか」ということを考えることができれば、そこに歴史を学ぶ意義があるのではないだろうか。

論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

論点別 昭和史 戦争への道 (講談社現代新書)

  • 作者:井上 寿一
  • 発売日: 2019/11/13
  • メディア: 新書