不眠の子守唄

書評ブログ。たまに洋楽や美術館。読書は海外文学・新書・古典etc.

ハムカツは、薄ければ薄いほど良い。【800字エッセイ】

ハムカツは、薄ければ薄いほど良い。

味の素 業務用 厚切りハムカツ150 1袋 (10個入)(冷凍食品)

幼いころから、貧乏舌である。家族で一番、貧乏舌だ。

 

他の家族や兄弟は贅沢な舌をしているというのに、なぜか私だけそうでないことを、ずっと不思議に思ってきた。どうして私だけチープな食の好みになってしまったのか?

 

人間の食の嗜好というものは、幼いころに食べたものに影響されるという。だから、人は「母親の味」を一生求め続けるのである。

おそらく、私が貧乏舌な理由はここにある。何を隠そう、数十年の我が家の歴史の中で一番厳しい家計であったのは、私が生まれた直後なのだから。必然、幼い私は、他の兄弟が幼少期に経験することができた高級食材を食べることなく大人になってしまった。

 

嗚呼、哀れな幼い私! ひとり高級食材を食べることを許されなかったなんて!

 

私は、中流階級に生まれた人間独特の悩みを抱えた。「庶民的」な食への愛を貫くべきか、「貴族的」な食の誘惑との間に揺れた。私はついぞ高級食材の美味しさを理解しつつあった。

 

しかし、一つの考えが私を思いとどまらせた。

「高級食材の味は、庶民にも理解できる。だが、貧乏舌にしかわからない美味しさを、貴族は理解できるのか」と。

 

答えは、わからない。庶民の味を解する貴族も多かろう。

だが、そこには先天的な違いがある。

 

私は所詮庶民である。

「僕は、貴族です。」と言い、貴族の誇りを持って死んでいく『斜陽』の直治のようにはなれない。

相手側の階級の食事を理解することができても、やはり、真に好きでいられるのは、生まれた時に親しんでいた食べ物だろう。

 

私は、「庶民の味」への愛に対して、誇りを取り戻した。食の原体験がB級グルメである以上、その原体験を一生鮮やかな記憶として扱っていこうではないか。

薄い、薄いハムカツを揚げながら、私は思いを馳せた。

斜陽 (新潮文庫)

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