不眠の子守唄

書評ブログ。たまに洋楽や美術館。読書は海外文学・新書・古典etc.

知られざるドイツ文化の一面に迫る!?―篠田航一「ヒトラーとUFO 謎と都市伝説の国ドイツ」書評・感想

平凡社新書はけっこうおもしろい本が多いと思っていて、本書もその一つである。

副題に「謎と都市伝説の国ドイツ」とあるように、本書はドイツの都市伝説について記した本である。「ヒトラーが宇宙人と接触していた!!」みたいな内容ではないのでご注意いただきたい(私は最初この本を「ナチスと宇宙人」のオカルト本ではないかと思ったが、そうではない)。

ヒトラーとUFO (平凡社新書0882)

著者紹介・内容紹介

著者の篠田航一さんは、毎日新聞の記者をなさっている方で、講談社現代新書『ナチスの財宝』という本も書かれている(こちらは未読だが、近いうちに読んでみたい)。

ナチスの財宝 (講談社現代新書)

ナチスの財宝 (講談社現代新書)

 

この本は、著者の篠田さんがドイツ駐在中(2011年からの4年間)に、現地で直接触れた「都市伝説」を集めた一冊である。

 

ドイツ人と言えばお堅い真面目なイメージがあるが、実はドイツ人は噂好きの性質も持っているという。そんな筆者が実際に体験したドイツ人の気質を肌で感じることができるのが、この本である。

ハーメルンの笛吹き男」などの古典的な伝説から、インターネット由来の現代の都市伝説まで幅広く紹介されており、この本はドイツという国の文化の知らない一面を紹介してくれている。

 

篠田さんは、ドイツ文化や都市伝説の「専門家」ではないかもしれない。

だが、著者の篠田さんは、ジャーナリストとしての能力を、本書で遺憾なく発揮している。

この点で、やはりこの本は篠田さんにしか書けないのではないかと思わせる名著である。

 

ドイツのフリーメーソン幹部代表に突撃

著者の能力が最大限発揮されている場面は、ドイツのフリーメーソンの「グランドマスター」に実際にインタビューしに行ったところなのではないかと思う。

 

著者は、フリーメーソンの「グランドロッジ」に取材を申し込み、単身乗り込む

取材したいとの希望を伝えると、すぐにOKとの返事があった。そして取材申込書を送るよう指示され、フォーマットが添付されたメールが送られてきた。

紙二枚に報道の媒体(日刊紙、通信社、テレビ、出版社、ブログなど)の種類、取材者の職責(編集長、特派員、カメラマン、フリー記者、アシスタントなど)の種類、そして上司の名前を記入する。

通常の国際会議などと一緒で、こうした書類を取材相手にあらかじめ提出するのは海外特派員の仕事としては珍しくない。

さすが、記者は慣れたものであると唸らせる。

しかし、著者は次のようにも思ったというから人間味がある。

自分は「とてつもない陰謀組織のドンにこれから会うのかもしれない」という妄想を少しだけ抱いてしまった。

著者はフリーメーソン幹部に話を聞き、陰謀論などの噂の「真相」がどうなのかを問う。

 

グランドマスターは、陰謀論などは一笑に付す。

だが、やはりフリーメーソンという団体は神秘性を帯びているのは確かなのだろう。

 

インタビュー中のグランドマスターのこの言葉は非常に印象的だ。

「以前、ノルウェーのバーで飲んでいた時のことです。バーテンダーの話し方がどうもメーソンっぽいと思っていました。そこで私は、メーソンのマーク入りの指輪をはめた手を、これ見よがしにテーブルの上に置きました。私の指輪を目をしたバーテンは次の瞬間、グラスを二杯出し、『乾杯しましょう、兄弟』と言ってきました」

フリーメーソンが好奇心をそそられる団体であることには間違いない。

インターネット由来の都市伝説ービーレフェルトの陰謀

もう一つ特に印象に残った都市伝説を紹介するとすれば、ビーレフェルトの陰謀」と呼ばれる都市伝説である。

 

この都市伝説単純で、「実はビーレフェルトという町は存在しない」という都市伝説である。

※もちろん、ビーレフェルトという町は実際に存在する町である。

 

この町は、どうやら絶妙に非常に「存在感の薄い街」であるらしい。

ビーレフェルトの人口は32万人というから、失礼ながら日本で例えると愛知県春日井市(人口30万人)くらいのイメージだろうか?)

 

なんだか、そのような「誇張した噂」というものは万国共通の物なのだなと思い、どこかほっこりとする。

日本でも同様の噂というのはすぐには思いつかないが、なんj(インターネットの掲示板)とかでよく言われる「オリックスバファローズのファンは3人しかいない」みたいなジョークに通じるものがある。

 

ビーレフェルトの陰謀」は、メルケル首相までも講演会で口にするネタだというから、十分にこの都市伝説は「ドイツ文化」ーー私たちの知らないドイツ文化の一部なのではないかと思う。

この本は、そんなドイツの一面を教えてくれる本である。

おわりに

「都市伝説」はあくまで伝説であるーーだが、そこには多くの人の興味を集める普遍的な理由がある。

 

都市伝説の真偽は、究極的には明らかにできない(もちろん、「ビーレフェルトの陰謀」のようなジョークを除いて)。

そこに都市伝説の魅力はあるのではないだろうか。この本は、都市伝説の持つ力はドイツでも一緒であるということを、現場の臨場感たっぷりに伝えてくれた良書だと思う。

ヒトラーとUFO (平凡社新書0882)

ヒトラーとUFO (平凡社新書0882)

 
ナチスの財宝 (講談社現代新書)

ナチスの財宝 (講談社現代新書)

  • 作者:篠田 航一
  • 発売日: 2015/05/20
  • メディア: 新書