不眠の子守唄

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日本はどうして「倭」から「日本」に国号を改めたのか?ー大津透『律令国家と隋唐文明』書評・感想

大津透「律令国家と隋唐文明」(岩波新書)を読んだので、感想を記そうと思う律令国家と隋唐文明 (岩波新書)

律令国家と隋唐文明」のテーマとは

私は、絶対に歴史に関する新書は「あとがき」から読むことに決めている。

というのも、たいていの場合「あとがき」にこそ執筆動機が書かれているからである。「はじめに」に書かれている導入は、読者を引き付けるための一流の工夫が凝らされていることが多いが、一方で純粋な著者の動機というのは見えてこない場合が多い。

 

この本も、おそらく例に漏れないだろう。

「あとがき」には、次のように書かれている。

近年、歴史学のーあるいは人文学のー「知」が重んじられなくなっている。学生と接していても、ウィキペディアの記載と、背後に厖大な研究史がある『国史大辞典』(吉川弘文館)の記述との差が感じられないようで、学問の危機的状況を感じる。 

筆者は、昨今の歴史学において、先人たちの研究史が顧みられることが少ないことを嘆いている。これは私も非常に同感するところであり、また同時に大いに自戒しなければならないものである。

 

とすれば、この新書の一つのテーマは「研究史に向き合った、学問的にも優れた新書を作る」ということではなかったかと推察される。

本書の特徴の一つは、多くの史資料を引いていることであろう。日本のみならず中国の書物も出典とし、また先行研究も、戦前から連綿とつながる研究史を踏まえて引用されている。

そのような文体もあって、この新書は非常にクラシックな本であり、ポップでないことは否定できない。だが、それこそ筆者の言う「あるべき新書のイメージ」なのであり、この本の美点である。

隋唐文明に影響を受けた律令国

 

ここまでは筆者の執筆動機を勝手に推察させていただいてしまったが、ここからは実際の本の内容について見ていきたい。

この本の内容的なテーマは、古代日本の律令国家が、いかに隋や唐、朝鮮半島の影響を受けていたかということにある。

 

「遣隋使」や「遣唐使」の存在は、広く知られている。

だが、有名な小野妹子の「日出づるところの天使、云々」という国書が、隋の皇帝煬帝を激怒させたのにもかかわらず、煬帝が返答の使者を送ったのはなぜか? などの古代史の疑問が明快に書かれているのが本書である。

 

また、私が本書で一番印象深かったのは「日本」という国号の成立時期についての議論である。日本がかつて「倭」と呼ばれていたことは知られているだろう。だが、それは、いつ、どのような理由で「日本」になったのだろうか?

 

本書では、大宝元年(701年)の第七次遣唐使が、初めて「日本」という国号を称したとする。この遣唐使の第一の目的こそが、新しい国号を中国の皇帝に知らしめることであったのだ。

 

しかし、今までの「倭」が新たに「日本」と称したことで、唐では混乱も生じたという。「倭」の中にあった「日本」という小国家が、「倭」を併呑したのではないかという憶測も流れたほどであったという。

 

このような、スムーズとはいかなかった国号変更が、どうして行われたのか?

 

この理由の一つとしては、次のような説が提示される。当時の日中関係は、663年の白村江の戦い以来、ぎくしゃくするところが多かった。それに対し日本側は、従来の「倭」から「日本」という国号に変更し、国体が変化したことを唐に主張することで、今までの良好ならざる唐との関係を清算しようとしたのである。

 

つまり、「日本」という国号の成立も対外関係なしには語れないのである。

 

私のブログの記事でこれ以上この本の内容について紹介しても、歴史学の重厚な知を傷つけてしまうのみに終わりそうなので、このくらいにとどめておく。

教育関係者・受験勉強用の本としても

余談だが、筆者は東京大学の教授である。ということは、おそらく、東大の日本史の入試問題の作成にも一定の関与をしているのではないだろうか。そのことを考えるとき、この本は教育関係者や受験生にもおすすめの本となる。

過去問の出題意図を伺い知るためにも、この本を薦める。

 

今年のセンター試験(最後のセンター試験)にも「遣唐使蝦夷の男女を連れて行った」という内容が問題文に書かれていたが、その内容は本書にも書かれている。大学入試問題の「出題側の人間」の最前線の知識を追うことは、必要なのである。

 

また、これからの大学入試は、世界史と日本史の関連付けが重視されるようになると聞く。そのような中で、本書がテーマとする律令国家と隋唐帝国との関係は、より学ぶ必要のあるものになっていくのではないだろうか。

律令国家と隋唐文明 (岩波新書)

律令国家と隋唐文明 (岩波新書)

  • 作者:透, 大津
  • 発売日: 2020/02/22
  • メディア: 新書
 
道長と宮廷社会 日本の歴史 06 (講談社学術文庫)

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  • 作者:大津 透
  • 発売日: 2009/02/11
  • メディア: 文庫
 
天皇の歴史1 神話から歴史へ (講談社学術文庫)

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  • 作者:大津 透
  • 発売日: 2017/12/13
  • メディア: 文庫