不眠の子守唄

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久米田康治『かくしごと』は、漫画家を題材にした最高の日常系ギャグマンガである

2020年にアニメ化もされた久米田康治の『かくしごと』は、漫画家を題材にした最高の日常系ギャグマンガだと思う

 

漫画家を題材にしたマンガというと、高校生が連載獲得を目指すところからスタートする『バクマン。』(原作・大場つぐみ、作画・小畑健)や、同じく漫画家を目指す少年2人の成長を描いた、藤子不二雄Aの自伝的マンガ『まんが道』が有名である。

 

これらの作品は「売れること」がストーリーの最終目標であり、作品の大枠は主人公の成長譚である。その一方で、『かくしごと』の主人公は、ピークを過ぎたマンガ家なのである。

主人公・後藤可久士は『きんたましまし』を代表作に持つ下ネタ漫画家であり、そのことを小学生である娘の後藤姫に徹底的に隠そうとする。——というのが、ストーリーのメインである。

このような設定によって、漫画家を主人公に日常系ギャグを成立させた作品として、この作品は画期的ではないかと私は思う。

かくしごと(1) (月刊少年マガジンコミックス)

漫画家を題材にしたマンガの面白さ

まず初めに、「漫画家を題材にしたマンガ」の面白さを主張しておきたい。

 

基本的にマンガとか小説とかいうものには、異常な頻度で漫画家や小説家・あるいは編集者が登場する

 

一般人にはプロの漫画家や小説家の知り合いは普通いない(少なくとも私にはいない)ので、マンガや小説の登場人物に作家が出てくると「そんな身近に都合よく作家はいないだろ......」と思ってしまう。

だが、作品は作家が書くものである以上、作家自身に身近な職業である「作家」がマンガや小説に登場するのは当然である。作家が一番上手に描くことができる人物こそ、「作家」という人間なのであるから。

 

そして、小説やマンガというものは、作家自身の個人的体験が出ているものの方が面白いことが多い。 

だから究極的に言えば、一番面白いマンガたりえる作品は、漫画家を題材にしたマンガだと思うのである(もちろん、ファンタジーとかは除くが)。

 

『かくしごと』の傑出性

だが、漫画家を題材にしたマンガだから無条件に面白いというわけではない。

 

『かくしごと』は、王道の「漫画家」をテーマとしていながら、従来の「漫画家を題材にしたマンガ」にはなかった境地を開拓していると思うのであるが、以下にその理由を書いてみよう。

マンガ家のネガティブ面

ふつうの「漫画家を題材にしたマンガ」というのは、最初にも書いたように、「栄光」を最終目的とするのが普通である。

 

だが、『かくしごと』の主人公は中堅漫画家であり、栄光を目指すということは一切なされない。

代わりに、これでもかとまで描かれるのが、漫画家の闇である。

 

闇というと言いすぎだが、「漫画家という職業」に対して非常にネガティブなのである。

主人公の行動原理が「娘に自分がマンガ家であることを隠す」であるように、週刊誌で連載している漫画家というものが、まったくもって華々しいものだとは描かれない。

ついでに言えば、大手出版社の編集者であっても華々しいものと描かれない。

作者・久米田康治の実体験

ちなみに、これらの『かくしごと』のメインテーマは、作者の実体験に拠っているところが多い。

先ほど「作者の実体験が出ている作品は面白い」と書いたが、この作品はまさに作者の実体験が出ているところなのである。

 

その中で一番は、「下ネタ漫画家」のレッテルを貼られた漫画家という主人公の属性だろう。

私の中では久米田先生は『さよなら絶望先生』のイメージが強かったが、久米田先生自信は一度ついた「下ネタ漫画家」のレッテルに苦労されたようで(『行け!!南国アイスホッケー部』『かってに改蔵』は、読んでみるとたしかになかなか下ネタがひどい笑)、その経験が『かくしごと』には多分に活かされている。

 

「下ネタ漫画家」のレッテルに苦しむという設定自体が、第三者から見たら面白いのに、それが実体験に基づいていたとしたら面白くないわけがない。

日常系ギャグの秀逸さ

しかし、このように『かくしごと』は、漫画家という職業をネガティブに描くからこそ、漫画家を主人公にして日常系のギャグ(自虐ネタを含む)が成立しているのである。

漫画家ネタには、一部『さよなら絶望先生』と被るネタもあるが、『かくしごと』で上手く再構成されている。 

 

日常系ギャグ自体は「過保護な父と純朴な娘」、そして無自覚だが顔がいいシングルファザーでもある後藤可久士を巡るちょっとした勘違いラブコメという感じで、これ自体は特に珍しいというわけではない。

だが、それぞれのキャラクターの性格付けがブレず、それぞれに魅力があるので、秀逸なギャグマンガとして成立している。

 

なお、ここまでの紹介を読んで『かくしごと』が「下ネタ漫画家」を題材にしたギャグマンガと聞いて敬遠してしまう方もいるかもしれないが、「下ネタ」というのは主人公・後藤可久士が一番隠したいものであるから、作中にはほとんど出てこない。

絶対に下ネタが無理という方にはお薦めできないが、普通の人なら全く問題なく許容されるレベルに収まっている。女性にも問題なくお薦めできるマンガである。

 

また、久米田先生の作品は「オチがない」ことが多いと言われるが、『かくしごと』については綺麗にオチている話が多い。

 

アニメ『かくしごと』の評価

ついでに書いておくならば、『かくしごと』はアニメ化もされている。

非常に絵が美しく、原作が好きなら見て損はない

 

逆に、アニメしか観ていない人には、ぜひ原作のコミックスを読むことを薦めたい。 

単純にアニメ化されていない話も多いので、原作を読めばより多く楽しめるというのはあるし、アニメだとやや影が薄い気もするサブキャラクターたちも原作では十分描かれるからである。

あと、アニメはどちらかというと家族愛のテーマを重視している感じだったが、ギャグを楽しみたいなら原作の方が勝っている

あと、原作は 「作者コメント」があるのが良いんです。週刊誌の最後にあるやつのことです。これがあるから、きれいにオチと話がまとまるんですね(地味に作品の本質にかかわる)。

 

また、『かくしごと』の単行本には久米田康治先生の解説(? エッセイと呼ぶべきか? 漫画家ネタの補足説明のようなもの)があり、漫画家というものに興味がある人には非常に面白い。「漫画家を題材にしたマンガ」のニーズも、しっかりと満たしている

おわりに

ちなみに『かくしごと』を読んだ人は、序盤でシリアス展開を予測することもあると思うが、実際にはそこまでシリアスにはならないので安心して読み進めてほしい。

ホームドラマとして感動もできるけど、やはりこの作品はそれ以上にギャグマンガである(作者の久米田先生も書いていたと思うけど)。

何度も書くが、『かくしごと』は秀逸な日常系ギャグマンガの傑作だと思う

 

『かくしごと』は全巻面白いけど、最初の1巻は特に面白いので、興味がある方はまずは1巻を読んでみてほしい。

かくしごと(1) (月刊少年マガジンコミックス)

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