不眠の子守唄

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忍ぶ影の不気味さと運命の悲しさーカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』書評・感想

カズオ・イシグロの最高傑作は? と聞かれたら、この『わたしを離さないで』を推す人は多いのではないだろうか。

私は正直に言うとこの問いには『日の名残り』と答えてしまうのだが、『わたしを離さないで』も名作であることには間違いないし好きな作品である。

それに、これからの社会でより重要な意味を持ってくるのではないか、と思う作品は『わたしを離さないで』である

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

『わたしを離さないで』のテーマ

この作品は、非常に緻密に構成され、数多くのテーマを持っている作品である。

 

現代社会に提起する、ある問題

人間の生の意味とは何なのか。

また、主人公たちになされた教育の是非はどうなのか? という問題。

さらに、記憶が持つ意味の重大さ。

 

そして、時間の過ぎることの残酷さである。

『わたしを離さないで』の設定(ネタバレ注意)

以下ネタバレになってしまうので、ご注意いただきたい。

 

簡単に言うと、主人公たちは「死ぬ運命」にあるのである。

 

――主人公たちは、臓器を提供するために生まれたクローン人間なのである。

 

主人公たちは孤児院に生活し、次第に自らの置かれた境遇を知るようになっていく。

そして、運命に対してどのように向き合うか、ということを突き付けられるのである。

 

なぜ主人公たちはスパルタクスになりえなかったのか

だが、この作品は「運命」をテーマにしているのか

ーーという疑問を、私は読後に抱いた。

 

運命の残酷さは、この作品のテーマであるかもしれない

だが、運命を受け入れるという選択にオルタナティブはなかったのか?

ーーこの作品を読んだときに、私は思った。

 

私も主人公たちに、ひとつの違和感を感じた。

従容として運命を受け入れるーーもちろん、運命に抗うこともするのだがーー主人公たちの姿勢に対して。

 

古代ローマの剣闘士・スパルタクスは、剣闘士としていずれ死ぬべき運命にあった。

だが、その運命に抵抗した。

スパルタカス (字幕版)

スパルタカス (字幕版)

  • 発売日: 2015/02/05
  • メディア: Prime Video
 

 運命になぜ抵抗しないのか?

 

その答えは、もしかしたら作中にあるのかもしれない。

抵抗する能力は、主人公たちにあったのか?--主人公たちは抵抗する能力をも去勢されていたのではないか、と私は思う。

 

それこそが、私が主人公たちに感じてしまった、ひとつの「気味の悪さ」だったのかもしれない。

約束のネバーランド』との類似性

その点、『約束のネバーランド』というマンガは『わたしを離さないで』と同じような設定だとよく言われるが、展開は全く異なる。

約束のネバーランド』では、主人公たちは置かれた運命からの脱出を目指すのである。

 

このマンガが支持されている要因には、『わたしを離さないで』に感じる違和感の裏返しのようなものがあるのではないかと、私は思う。

 

しかし、『わたしを離さないで』は、『約束のネバーランド』ほど明瞭な「敵役」は存在しない。

「ほんとうの敵・ほんとうに怖いものは何なのか?」と考えさせるのは、『わたしを離さないで』の文学的な特徴なのではないかと、『約束のネバーランド』から逆照射して考えることができる。

おわりに

この作品については、うまくあらすじについて触れることができる自信がなかったので以上のような駄文を連ねてしまった。

 

私は、基本的にあらすじをネタバレされても変わらず作品を楽しめる性格である(というか、むしろ古典的な読むのに集中力を要する作品についてはネタバレされていた方がありがたいとさえ思っている)。

ーーだが、この作品は、数少ないネタバレされていなかったことに感謝した作品である。

序盤は謎の多さゆえにやや読みにくい作品であるが、その謎が徐々に明らかになっていく際の快感は何事にも代えがたい。多くの人に読んでもらいたい名作である。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

綾瀬はるか主演のドラマ版

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