不眠の子守唄

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「耽美主義」とは何か?という答えはここにあるーオスカー・ワイルド『サロメ』あらすじ・感想

オスカー・ワイルドという人物は、なぜだかサブカルチャーの世界で何か熱狂的な支持を集めている人物である。

1980年代UKロックのカルト的存在であるThe Smithsザ・スミス)には「Cemetry Gates」(注:Cemetery Gatesのスペルミス、収録アルバムThe Queen is Dead)という曲があるが、そのラストでは「But you lose 'cause weird lover Wilde is on mine」(でも僕の隣には変態性愛者ワイルドがいるから君の負けさ)とかいう詞が歌われている。

インターネットの世界でも、彼はアンサイクロペディアというウィキペディアのパロディサイトでも、ワイルドはなぜか崇拝されている。

 

そんなワイルドの魅力を存分に伝える一冊を選ぶとしたら、私はこの「サロメ」を推す。このサロメは短い作品だが、「耽美主義」とは何かのエッセンスが凝縮された作品ではないかと思うからである。

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サロメ」作品概要

作者 オスカー・ワイルド
言語 フランス語(ワイルドは英国人)
ジャンル 戯曲
幕数 1幕
初出 1891年
刊行 1893年
初演 リューニュ・ ポエ一座公演(1896年 ルーブル座)

この作品は戯曲である。つまり、舞台で上演するための作品である。それゆえ、書籍として読んでいく場合も、視覚的効果を意識しなが読むことでこの作品の凄さが理解できることを最初に述べておきたい。

 

サロメ」登場人物

ヘロデ…異母兄の王を殺して即位し、兄王の后であったへロディアを妻とする。義理の娘(かつ実の姪)であるサロメに魅了されている。ヨカナーンに対しては預言者として畏怖の感情を抱いている。

ロディア…ヘロデの后。ヘロデがサロメに見惚れるのを快く思っていない。自分を侮辱するヨカナーンを処刑してほしいと思っている。

サロメ…へロディアと前の王との娘。

カナーン預言者イエス・キリストに洗礼を授けた洗礼者ヨハネのこと。兄弟の妻であった人物との婚姻は近親相姦であると糾弾する。

若いシリア兵(ナラボート)…ヘロデの軍の親衛隊長。サロメを恋慕している。

この作品の舞台は、ちょうどイエス・キリストが生きていた紀元一世紀の古代イスラエルであり、この物語のあらすじも新約聖書中のエピソード(『マルコによる福音書』第6章の記述)による。

しかし、創作による部分も多く、いかに「耽美的」にこのエピソードを潤色したかというのがワイルドによるこの作品の見どころなのである。

ワイルド「サロメ」あらすじ

舞台はヘロデの宮殿

  • ホールではヘロデ、へロディアサロメらが宴会をしている
  • そこを兵士がテラスから見下ろしている
  • また、舞台の左奥手には水槽があり、ヨカナーンが囚われている

テラスからサロメらを兵士が見下ろしている場面で舞台は始まる。

 

宴会場にいたサロメは、ヘロデが自分のことを見つめるのに耐えられなくなり、その場を離れる。サロメは兵士らのいる場所に近づき、そこでサロメは水槽の中から叫ぶヨカナーンの声を聴く

カナーンは、ヘロデやへロディアを(直接的ではないが)侮辱する言葉を発している。ヨカナーンのことはサロメも噂に聞いていて、父が畏れている人物であるということも知っている。そのようなヨカナーンはいったいどのような人物なのだろうか、サロメは一目見たいと思い始める。

サロメ「まあ、なんと不思議な声でしょう。わたしは彼と話がしたい。」

兵卒「それはできませぬ、王女様。」

サロメ「わたしは話がしたいのだ。」

兵たちはなんとかサロメを止めようとするが、サロメは言うことを聞かない。

そして、サロメは若いシリア兵を誘惑する。

サロメ「お前は私のために今のことをしてくれるだろうねえ、ナラボート?お前は私のためにしてくれるね?・・・」

 若いシリア兵はついに折れる。

若いシリア兵「預言者を出してこい。......サロメ王女様が会いたいと仰せになっている。」

カナーンサロメはついに対面する。

サロメ「わたしはへロディアの娘、ユダヤの王女、サロメよ。」

カナーン「下がれ!バビロンの娘!主に選ばれしものに近寄るな。お前の母はその不義の酒で地上を満たしたのだ。その罪業の叫びは神の耳にも聞こえているぞ。」

サロメ「もっと言っておくれ、ヨカナーン。お前の声は私を酔わせる」

サロメを突き放すヨカナーンに対し、かえってヨカナーンサロメは惹かれていく。

 

サロメはヨカナーンを誘惑する、しかしヨカナーンの心は動かない。

サロメ「わたしはお前の口に接吻するよ、ヨカナーン。わたしはお前の口に接吻するよ......」

それを見ていた若いシリア兵は、サロメがヨカナーンを誘惑するのをこれ以上見ることができずに自らの剣で自殺してしまう。

 

舞台は若いシリア兵の血で染まる

 

だが、サロメは気にも留めない。

サロメ「わたしはお前の口に接吻するよ、ヨカナーン。」

カナーン「わしはお前を見たくない。わしはお前をもう見ない。お前は呪われているぞ、サロメ、お前は呪われているぞ。」

カナーンはここで地下に降りていく

 

ここで、サロメを探したヘロデとへロディアが、サロメのもとに来る

カナーンがへロディアを侮辱する声が聞こえてくる。へロディアはヨカナーンの処刑を望むが、ヘロデは預言者を畏れて殺すことはできない。言い争いが続く。

 

ヘロデは気を晴らすため、サロメに舞踏をしてほしいと頼む。だがサロメは応じない。ヘロデはここで禁断の約束をする。

ヘロデ「サロメ、もしそなたがわしのために舞踏をしてくれるなら、そなたの望むものを何であろうと、たといそれがわしの領国の半分であろうと、そなたにやろう。」

サロメは立ち上がり、ヘロデに向き直る。

サロメ「あなたはわたしのお願いいたしまするものは何であろうとくださいますか、王様?」

ヘロデ「何であろうと、たとひそれがわしの領国の半分であろうと。」

 サロメは裸足で舞踏をする準備をする。

しかし、床は若いシリア人の血で染まっている。さらに、折しも皆既月食で月が赤く染まる。ヘロデは不吉な前兆を感じるが、サロメは足を血で染めながら舞踏を終える

サロメ「わたしの今すぐに持って来させていただきたいものは、銀の大皿の中に入れました......」

ヘロデ「(笑って)銀の大皿の中にとな? よしよし、きっと銀の大皿の中にだ。あれはかわいいことを申すではないか?(中略)わしの宝はそなたのものだ。それは何だな、サロメ?」

サロメ「……カナーンの首

狼狽するヘロデ、喝采を浴びせるへロディア

ヘロデはなんとか翻意させようとするが、サロメの意志は固い。

 

煮え切らないヘロデに対し、へロディアがヘロデの指から「死の指輪」(死刑執行を命じる特別な指輪)を抜き取り、役人に渡すことで死刑命令が下る。

そしてついにヨカナーンの首が水槽の中から運ばれてくる。

サロメ「ああ!お前はわたしにこの口に接吻させてくれようとはしなかったね、ヨカナーン。さあ、今わたしは接吻するよ......」

ヘロデ「あれは化け物だ、お前の娘は......」

サロメのヨカナーンへの愛憎渦巻く台詞ののち、舞台はクライマックスとなる。

ー雲が月を隠し、闇に包まれるー

 

サロメの声「ああ!わたしはいまお前の口に接吻したよ、ヨカナーン。わたしはお前の口に接吻したよ。お前の唇には苦い味があった。あれは血の味だったろうか。……いや、ことによったらあれは恋の味かもしれない。恋は苦い味がするということだから。……だが、そんなことはどうでもいい。どうでもいい。わたしはお前の口に接吻したのだよ、ヨカナーン。わたしはお前の口に接吻したのだよ。」

 

ーひとすじの月光がサロメに射してその姿を現すー

 

ヘロデ「(振り返ってサロメを見て)あの女を殺せ!

 

ー兵卒ら突き進んで、サロメを楯の下に押し殺すー

(引用は岩波文庫版(佐々木直次郎訳)を口語訳)

サロメの狂気

サロメ」のあらすじは、適宜引用しながら上に紹介したので、作品の魅力の半分くらいは伝えられたのではないかと思う。

この作品の最大の魅力は、はじめ純朴そうに描かれていたサロメが、ラストでは「化け物」に変貌することにある。このサロメの描き方は圧巻である。

 

そして、何度も言う通り、この作品は戯曲であるから、視覚表現を意識しながら読むことで魅力が増すのである。

物語序盤で自殺する若いシリア兵は、後半サロメが舞う「血濡れの舞台」を演出する。

また「死の指輪」も、戯曲ならではのギミックなのだろう。物語としても結末があまりに鮮烈で面白い作品であるが、ぜひ頭の中に舞台装置を組み立てながら読むことをお勧めしたい作品である。

 

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