不眠の子守唄

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「緊急事態条項」は本当に危険なのか?ー長谷部恭男・石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』書評・感想

長谷部恭男・石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』を読んだ。

この本で議論されている「緊急事態条項」は、自民党憲法改正草案の「緊急事態条項」である。

改正新型インフルエンザ特措法での「緊急事態宣言」とは違うのであるが、新型コロナウイルスでの社会不安のどさくさに紛れて「緊急事態条項」を有した憲法改正へと進んでいく可能性は大いにあるだろう。だが、それは本当にいいのか? というのを問うのが本書である。ぜひ、一度多くの人に読んでいただきたい。

ナチスの「手口」と緊急事態条項 (集英社新書)

ナチスの「手口」とは

この本のタイトル「ナチスの「手口」」とは、2013年の麻生太郎財務相の発言によるものである。

麻生氏の真意はよくわからないが、少なくとも麻生氏の「みんな納得して」ワイマール憲法ナチス憲法に変わったという認識は誤りであると本書は指摘する。

 

そして、ナチスを生んでしまったワイマール憲法の「緊急事態条項」や稀代の悪法「授権法」について解説しつつ、今自民党改憲案に記されている「緊急事態条項」のどこに問題があるのかを解説する。

 

問題の一つは、緊急事態条項の発令要件が明確に規定されていないことである。

ワイマール共和国でも、この問題を孕んでいた。「いつ」「どのような時」が「緊急事態」なのか、法律で定められていない。だからこそ、都合といい解釈でヒンデンブルク大統領が「緊急事態条項」を出すことができ、それをナチスが利用できたのである。

 

この問題は、自民党改憲案も抱えている

 

諸外国と比較し、日本の行政に対するチェック機能は不足していることが指摘されているのは興味深い。

 

自民党の「憲法改正草案」の問題点

この本が問題とするのは、自民党の憲法改正草案について見てみよう。

 

この改正草案は「気持ち悪い」と思う。

第一に気持ち悪いのは、改憲案102条である

自民党改憲案 第102条

全て国民は、この憲法を尊重しなければならない

国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

意味が分からない。

 

本来、国民は憲法の制定主体であるから、国民が憲法を遵守する義務はない。

現行憲法でもそうである。現行憲法憲法を遵守する義務があるのは、国務大臣や公務員である。

 

それが、改憲案では、国民は憲法を遵守する必要があるが、国務大臣らは「擁護する義務」があるのであって「遵守する義務」はないのである。

 

吐き気がする。この改憲案は、国民から主権を奪おうとしている。

 

政権全てを批判するわけではないが、この改憲案は全く支持できない。

 

そんな「自民党改憲案」の「おかしさ」を糺してくれるのが、この本である。

おわりに

集英社新書編集部はおそらく「憲法改正」に強い危機感を持っていて、改憲をテーマにした多くの新書が出ている。本書に興味を持った方は、ぜひ他の新書も読んでみてほしい。

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