不眠の子守唄

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ハーパー・リー『To Kill a Mockingbird(アラバマ物語)』はどんな作品?ー映画版と原作を比較するー

20世紀に書かれた最高の英米文学は? というランキングで、たいてい上位に君臨するのは、『ユリシーズ』とか『怒りの葡萄』など日本でも馴染み深い本である。

だが、アメリカ人がこのようなランキングを作成すると、たいてい上位に『To Kill A Mockingbird』という本が上位にランクインする(例えば、ラドクリフ社の「20世紀最高の英語の小説」ランキングだと4位)。

アメリカでは「一番の本」と称されることもあるこの本はどのような本なのか、ということをこの記事では紹介したい。

アラバマ物語

映画「アラバマ物語」の原作

先に紹介したように「To Kill a Mockingbird」なんていう名前は、日本ではあまり知られていないだろう。

というのも当然で、日本ではこの本は「アラバマ物語」として知られているからである。アラバマと言えばアメリカ南部、黒人差別の根強かった地域である。

 

またこの作品は、「ローマの休日」でオードリー・ヘプバーンと共演したことでも有名なグレゴリー・ペックの主演で、この作品は映画化されている。

(なお、グレゴリー・ペックアラバマ物語アカデミー賞主演男優賞を受賞した)

 

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アラバマ物語(字幕版)

アラバマ物語(字幕版)

  • メディア: Prime Video
 

この映画は映画史に残る、非常に良い作品である。グレゴリー・ペックの演じたアティカス・フィンチは2003年にアメリカ映画協会の選ぶ映画ヒーローの第1位にも輝いたことがある。

このランキングで2位はインディ・ジョーンズ、3位はジェームズ・ボンドだったといえばそのすごさはわかるだろう。

 

しかし、映画版と小説版には細かだが多くの違いがある。

 

映画「アラバマ物語」と原作小説との違い

当然ながら映画版は、原作を圧縮している。それゆえに、次のような点は変更ないし簡略化されている。

 

映画版のあらすじはWikipediaなどをご参照いただくとして、以下では映画版を原作小説と比べた時の感想を記しておこう。

・スカウトとジェムの友人、ディルの描き込みの中途半端さ。

・なぜスカウトとジェムは黒人牧師と知り合いなのかが明らかにされていない(小説ではその理由も描かれる)。

・ユーウェルの単純な「悪役化」に伴う、カニンガムの役割の低下(これに関しては、映画版の方が部分的にはよかったとも思う)。

・トムの死に方の違い(これは、小説版の方がよかったと思う)

少し映画の欠点をあげつらっているようになってしまったが、映画の方が良い場面も多いのである。メイエラの描き方は映画の方が優れていたと思うし、ロバート・デュバルのデビューとなった役であるブーは、小説の描き方の上を行っていた。

ネタバレになるので伏せるが、最後のブーについての語りも、映画版の方が私は好きだった。

 

映画だからこその名場面も多かったし、アラバマ物語」は、非常によくできた映画として薦めたいと思う。

 

だが、私は、やはり原作小説の方が優れているのではないかと思うのである。

小説版『アラバマ物語』感想・考察

私が、映画版は小説版に劣ってしまうと思う理由は、小説の描こうとしたテーマが描けていないからである。

 

もちろん、この小説のテーマは、弁護士である父・アティカスが黒人差別に真っ向から立ち向かうことを通じた主人公スカウトの心の成長なのである。この点を描いているのは、映画も同じである。

 

だが、小説の描いた、その根底にあるテーマこそが重要なのではないかと私は思うのである。そのテーマとは、次の台詞で端的に表される。

「彼らと、理性のあいだに、なにかが入りこんできたというわけで、(中略)ーー彼らは努力はしてみるんだが、公明正大になれないんだ。」

本来ならば優しい人間でも黒人差別をする。ーー理性との間に「何か」が邪魔をしてしまっているからである。

これが、この本のテーマではないかと思うのである。

小説におけるカニンガム一族の役割

小説版で、カニンガムの一族は映画版よりも大きな意味を持つ。

 

彼らは、本来は善性を持った人間である。だが、なぜだか黒人のことになるとまともな評価を下せなくなってしまうのである。そして、トムへの私刑を衝動的に企てる。

だが、スカウトとアティカスによって改心し、陪審員として一人トムは無罪ではないかと提起し場を紛糾させるーーこれが、陪審員の審議の長引いた理由である。

(この顛末は映画版ではカットされている、審議が遅いことだけが描かれる。)

 

この、どうして人は差別をしてしまうのか? というテーマこそ、普遍的であり現代においても作品が価値を持つ理由ではないかと思う。

To Kill a Mockingbird』という題に込められた意味

このようなテーマは、「To Kill a Mockingbird」という題にも表れているのではないか。「モッキンバード(モッキングバード)」とは、「ものまね鳥」のことらしい。美しく鳴き、誰のことも傷つけない存在として描かれる。

 

「罪のないものを傷つけるーーto kill a mockingbird」ということだけはしてはいけない、という公理にさえ従えば、世の中はよくなり差別もなくなるのではないかーーというのが、作品に込められた願いなのではないかと考えた。

 

ラストのシーンでアティカスは、自らの信条を曲げたかのようにも見える。

 

だが、それはブー・ラドリーに「罪のないものを傷つけてはいけない」という公理を当てはめたからではないか、と私は思う。

おわりに

ブー・ラドリーとブー・ラドリーズ

余談だが、90年代イギリスで活躍した、この作品に登場する「ブー・ラドリー」から名付けられた「ブー・ラドリーズ」というバンドがある。

彼らの一番の代表曲は「Wake Up Boo!」なのであるが、この曲の歌詞も「アラバマ物語」を読むとよくわかるようになり、面白い。


The Boo Radleys - Wake Up Boo!

その点、「アラバマ物語」はブリットポップファンにも薦めたい一冊である。

アメリカの名作として

この記事では映画版との比較に重点を置いたが、映画版にも小説版にも共通するテーマはある。

それは、作品を貫く黒人差別や不正への強い抵抗の信念である。

 

現代のアメリカ人の道徳観を形成した本としても、この本は大きな意味を持っている。読む価値のある一冊である。

アラバマ物語

アラバマ物語

 
アラバマ物語(字幕版)

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▼英語版

To Kill a Mockingbird

To Kill a Mockingbird

  • 作者:Lee, Harper
  • 発売日: 2015/12/15
  • メディア: マスマーケット